
第一三共は3日、主力抗がん剤「エンハーツ」について、一部の乳がん治療の1次治療を対象とした最終段階の臨床試験(治験)の中間解析データを発表した。「臨床的に意義のある改善を示した」とし、初期段階の乳がん治療への適応拡大承認の申請に向けて各国の規制当局と協議を始める。奥沢宏幸社長は同日開いた説明会で「エンハーツをがん治療のより早期の段階で使用できるよう尽力する」と述べた。
同社は米国で開催中の世界最大のがん学会「米国臨床腫瘍学会(ASCO)」で、「HER2陽性の進行性または転移性乳がん患者への1次治療」を対象としたエンハーツ治験の中間解析データを公表した。現在の標準的な治療と比較して、死亡リスクを低下させるなど「統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を示した」という。
エンハーツは標的に結合する抗体とがん細胞を攻撃する薬剤を組み合わせた「抗体薬物複合体(ADC)」と呼ばれる医薬品。すでに、一部の乳がんや胃がんなどで承認を取得し、抗がん剤治療で使われている。ただ現在は、別のがん治療薬を試した後(2次治療以降)でないとエンハーツは使えない承認となっている。
今回データを公表した治験は、抗がん剤治療の初期段階(1次治療)を対象としたもので、1次治療での承認を当局から得られれば、競合する他の抗がん剤に対する優位性になる。第一三共にとってはエンハーツの販売拡大に、患者にとっては新たな治療の選択肢となる。奥沢社長は承認申請への意欲を示し「エンハーツは新しい成長フェーズに入る」と話した。